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つれづればなhttp://turezurebana2009.blog62.fc2.com/blog-entry-128.html
この映像は春の風が吹きすさぶリビアにサルコジ前大統領が仏軍を侵攻させるかどうかと議論されていた頃だった。2011年6月2日、イスラエルのテル-アヴィブ大学で行われた講演である。講師はフランス人哲学者のベルナール・アンリ・レヴィ(Bernard-Henri Lévy)、そして現在イスラエル法相のツイッピー・リヴニ(Tzipi Livni・当時はイスラエル野党第一党党首)である。
元記事の画像→ http://www.youtube.com/watch?v=DWnr27FvNhs
おふらんす野朗のオカマ英語にイライラするのでご了承いただきたい。
−レヴィ氏に質問します…政治において倫理と現実との間の選択はどのように為すべきとお考えですか?たとえばじきにエジプトで大統領選挙がありますがムスリム同胞団が議席の過半数を得たとしますと、どのような立場をとられるでしょう?アルジェリアで起こったようにエジプト軍がムスリム同胞団の政権獲得を阻止する必要があるというご意見はおありでしょうか?もしくはガザ地区でハマスがそうなったように民主主義の掟に従いムスリム同胞団の勝利を許すのでしょうか。
−1992年にアルジェリアで選挙が(軍事クーデターにより)中断したのを肯定的に見ている。「GIA(武装イスラム集団)」や「イスラム救済戦線」が与党となるのは民主主義に反している。
ガザの例(ハマスが選挙に勝ったこと)にも同じ感情を抱いている。私に言わせればあれもクーデターだ。民主的なクーデターだがクーデターには違いない。ヒットラーが1943年に与党を勝ち取ったのもクーデタだ。
エジプトでムスリム同胞団が与党に立ったとしても「民主主義がこれを欲した」とは言えまい。「選挙の結果に従おう」とは、もちろん言えまい。
モンテスキューの言を用いてバラク・オバマが言ったように、民主主義は選挙だけを指すのではなく社会的価値を指す。両方とも必要だ。
もし私が何を信じているかしりたいのなら…ここでこれをいうにはリスクがあるけれど…私もエジプトの専門化ではないので皆さんと同様に状況を見ながら主張しているに過ぎない(ことを前提に話す)が、私の主張は、エジプトで有力になるであろう新しい空気(ムバラク独裁を駆逐し国民投票による民主政治が始まること)はムスリム同胞団にとっていい風を送るとは言えないということである。同胞団が与党になりそうだという状況を役立てるために彼らを「力をもつ唯一の政治組織」と認めることを私は肯定しない。
−あなたのお話を正しく理解したとすれば、もしムスリム同胞団が正式に選挙に勝ったとすれば、同胞団が与党に立つことを阻むために軍部がクーデタを起こすことに賛成するとおっしゃるのですか?
−ああ、賛成する。彼ら(ムスリム同胞団)が与党に納まらないためならなんでもする。
−国際法に従って、ね(笑うリヴニ)
−さっき話したようにね(笑うレヴィ)
演題は「リビア」であった。ここでは欧米がリビア問題にどういう姿勢をとるべきかということが話され、その関連で話に上ったのがエジプトである。
講演の日付は2011年6月でありながら、語られた内容はまさに今日のエジプトである。これが何を意味するかはお察しのよい方であれば説明の必要もない。
レヴィの主張を要約すれば次のようになる。
ひとつ、西欧の価値観から外れた政党が当事国国民の支持を得て勝利した場合それをクーデターと定義している。
ふたつ、アルジェリアの選挙が軍事クーデターにより反故にされたことを肯定している。
みっつ、国民が指導者を選ぶという民主主義の大原則をはなから無視している。
よっつ、エジプト国民が選んだ政党をエジプト軍によるクーデターにより排除すべきだとしている。
ベルナール・アンリ・レヴィは、アルジェリア生まれのフランス国籍を持つ「哲学者」である。ユダヤ系であるとされている。アフリカ・中東・旧ユーゴ・旧ソ連のあらゆる政治問題に首を突っ込んでは欧米の軍事介入を煽るいわば「戦争屋」である。懇意にしていたサルコジ前大統領に仏軍のリビア侵攻を提唱したのもこの男、つまり「アラブの春」の脚本家の一人でもある。レヴィに鼓舞されたためかサルコジは仏軍にリビア空爆を開始させ、英米軍はそれに続く形で参戦した。さらにNATO軍が加わりリビア介入は空爆開始後半年でようやく終結する。この映像の講演が行われたのは仏英米NATO軍の「いい加減な」爆撃のため多くの市民が誤射・誤爆の犠牲になっていることが明るみになり介入に批判の声が集まりだした頃であり、おそらくは軍事介入の正当性を再確認するためにもこのような講演会が催されたのだろう。
仏軍のリビア侵攻は一般には「悪者カッダーフィー」を王座から追い落としたとされ肯定的に見られているがそうではない。アフリカ・アラブ一帯に欧米の新体制を布くための作為であり、侵略である。今のエジプトの惨劇も同じように欧米の標的となったために起きたであろうことはこの映像がそれを証明している。
横で首を立てに振りながら賛同する女はツイッピー・リヴニである。ユダヤ人である彼女はシオニスト武装組織の幹部の娘として生まれた。兵役の後モサドに勤務しパリなどを舞台に多くの特殊工作(暗殺)に携わった。その後弁護士を経て政界に入りシャロン首相の懐刀として活躍、脳卒中に倒れたシャロン(暗殺未遂説あり)からオルメルトに政権が移るとそこで外務大臣に就任した。その後一時政治の中心から遠ざかるが去年から議員として復帰する。現在はネタニヤフ政権の法務大臣を務める。殺し屋が大臣になれる物騒な国である。
一般人が勝手にこのようなことをほざく分には問題はない。しかし欧米の政財界そして世論に少なからぬ影響力を持つこの男が、国立大学の講演会で元閣僚と同席の上で発言したことであれば意味が違う。さらなる問題はエジプトがこの男の提言したとおりの道を歩まされていることである。
今日のエジプトの惨状は日本でも映像が公開され知られるものとなったがわかりづらいことが多い。「誰が暴力を振るっているか」が見えにくい。
虐待を受けるのはムスリム同胞団とそれを支持する市民たちである。
銃で市民を射殺するのはエジプト軍である。
催涙ガスや棒で市民を攻撃するのは警察である。
軍や警察とは別の「自警団」がある。現地では「バルタギイヤ」と呼ばれている。テロや紛争で親を失った子供たちをムバラク政権が保護養育しバルタ(=斧)を持つ私服の暴力集団として育てた。思想も信仰もない。金、食料、覚せい剤を与えられ、家もなくバラックで暮らす。ムバラク政権時時代には敬虔なイスラム教徒の市民たちはこのバルタギイヤに常に生活を脅かされていた。
ムスリム同胞団のデモ隊に危害を加え、逃げる者をリンチにかけ、逃げこんだモスクを取り囲んでは火をつけ、教会に放火しその罪をムスリム同胞団になすりつけたのはこのバルタギイヤである。ソーシャルメディアの映像の中で棒を振り上げ暴れ周り「暴徒化したムスリム同胞団」の印象を世界に与えたのはこのバルタギイヤである。
アメリカはエジプト軍に対する一切の援助から手を引き制裁することを宣言した。こうして表面上は虐殺を受ける側に立つかのように取り繕う。しかしアメリカの中東外交はイスラエル抜きでは語れない。アメリカがエジプト軍に資金と兵器を流さないことはイスラエルを中東で丸裸にすることに近いのである。ではどうやってイスラエルを納得させたか。
アメリカが停止した援助は我々が埋め合わせる、と、エジプト軍を勇気付けるサウジアラビア王家。イスラエル・米・サウジ・エジプト軍がそう合意した上での制裁宣言だった。サウジを含む湾岸諸国の殆どは欧米追従型の世俗主義政権である。彼らにとって同胞団の台頭は甘い石油を貪ることを阻害されかねないために何より恐ろしい。その湾岸諸国を使い石油価格を操る欧米としては同砲団にその基盤をひっくり返させるわけにはいかない。この好機に同胞団をあぶり出し、駆除したいのである。
エジプトではムスリム同胞団の幹部たちが次々に捕らえられている。
若く血気盛んな者たちに忍耐を教え、神の言葉を咀嚼して説くことのできる老練の指導者が最も必要なこのときに彼らは軍によって獄中に送られる。
そのかわりに獄中から舞い戻ったのは無期懲役で服役していたムバラクである。今後は自宅で軟禁されるという。
世界のメディアがいかに同胞団をテロ組織呼ばわりしようとそうでないものは仕方がない。彼らの真の目的は教徒として生き、教徒として死ぬことである。そして神のほかには誰にも服従しないという教義を守るためには命を顧みずに戦う。
傀儡政権によって信仰を妨げられることに反抗したこの市民たちを「民主化を求めて立ち上がった」と勝手に定義したのはじつは西洋人である。
シリアでも昔からムスリム同胞団が政治組織として活躍していた。そして悲劇は国民のほとんどがスンニ派イスラム教徒であるこの国で、シーア派であった軍人ハーフィズ・アサドが欧米の支援でクーデターを起こして政権を乗っ取ったことで起こった。スンニ派の同砲団と市民は政府から激しい弾圧を受けることになった。そして1982年、「ハマの大虐殺」が起こる。非武装の市民が政府軍の爆撃に遭い、地下に避難した市民は毒ガスによって殺害、その数は三万人を超える。シリアにおいてこの大虐殺に触れることは投獄を意味している。
そしていま泥沼の内戦にあえぐシリアでは、息子のバシャール・アサド政権と、それに反抗する勢力が攻防を繰り返している。
反政府勢力はひとつではなく、いくつもの勢力がゲリラ的に戦いを続けていることは「いったい誰が悪いのか」を見えにくくしている。
父から大統領を継承したバシャール・アサドは引き続きスンニ派の国民を迫害し続けた。
ハマの大虐殺以後もムスリム同胞団は地下活動を続けアサドを政権から追う好機をうかがい続けていた。そしてエジプトから飛び火したアラブの春に乗じて反政府デモを開始したが政府軍の激しい制圧はデモを内戦に発展させた。
シリア軍から離反した軍人たちが「自由シリア軍」を結成し反政府戦闘勢力の中心的存在となる。
シリア北部に勢力を持つクルド人武装部隊も反政府側に組みしているが、圧政に対して戦う集団とは目的が違い彼らは「国土」を求めている(旗をたてれば建国できると思っている)。
そのほか金で雇われた寄せ集めのアルカイダとヒズボッラー(いずれも擬似イスラム武装集団)が目的もなく暴れている。その雇い主もまた欧米である。
アサド政権を非難しこの反政府組織に資金協力をするのは欧米である。
それに対しアサド側に資金を貸し付け武器を売るのはロシアである。
これだけの流血惨事を前にして、指一本動かそうとしないのが国連である。
いったい誰と誰と誰が悪いのか。
アメリカはアサド政権に対し「化学兵器の使用が(侵攻の)限界線である」とかねてから宣言していた。しかし去年から化学兵器が使用されたとの噂が流れていたが調査する権限のある唯一の組織である国連は何の調査も行わなかった。
今月にはいりエジプトの情勢がますます悪化するのと同時にシリアの戦火は激しさを増した。そして今週明けに国連の調査団がシリアに入り化学兵器の使用があったかどうかの調査がようやく行われ始めた。
その矢先である。
21日未明ダマスカス近郊の数箇所で、サリンと思われる化学兵器が使用された。正式でない発表によれば死者は1300人を超える。苦しみながら命を落とした罪なき市民の、その大半は子供だった。
アサド政権は化学兵器の使用を否定した。
ロシアは反政府勢力のプロパガンダだとして支援していたアサドを庇った。
国連は直ちに事の真相を明らかにするよう委員会を立ち上げる意向を明らかにした。
アメリカは「限界線を超えた」と指摘、反政府勢力に更なる資金援助をすると発言。
イギリスはアサドを非難。
フランスは「軍事介入」と即座に言った。
イスラエルはアサド政権が化学兵器を使用したことを諜報部が確認したと発表。
国連調査団がシリア国内で活動中の今なぜ化学兵器を使ったか、これは解せない。
アメリカが以前から化学兵器の使用を侵攻の前提のような言い方をしており、イスラエル諜報部がその使用を告発し、それにフランスが呼応するかのように侵攻を叫んだ、これも解せない。
なにより今まで何もしなかった国連が重い腰を持ち上げて調査団を送った時点と化学兵器が使用された時点の一致、これが一番解せない。
そして気が遠くなるほど恐ろしいのは、化学兵器を使ったのは誰であったかを「認定」するのは国連なのである。
冒頭の、民主主義とは投票結果ではなく社会的価値観だという戦争屋の主張をぜひもう一度読んでいただきたい。その価値観とやらの中には非西洋人社会のそれは含まれていない。まさにこれが民主主義の産みの親たちが掲げた思想である。
この世で親子が死に別れたり、一家が消えてしまったり、町中、村中、国中が焼かれたり、国が孤児たちをゴロツキに育てたり、そして同国人を殴り、襲い、血を流して内戦へと引きずり込む地獄絵の背景にはこの吐き気のするような戦争屋の理屈があることを知っていただきたい。
そしてこれはイスラエルという特殊な国での理屈ではなく世界の主導権を握って離さない欧米と、国連という決して和平のためになど機能しない巨大組織で共有する思想であることを、ゆめゆめ忘れないでいただきたい。
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